誰にも自分の人生の結果が予測できないのとよく似ている

 私は社長から命ぜられて、28年間、三菱重工の営業担当をやってきた。
 私はそれまで中央競馬の馬券を購入したことはなかったが、最初に自分の会社の担当として面会した資材課の主任に突如、誘われて、初めて5000円の軍資金を持って中京競馬場に行ったのが競馬に関わった最初である。
 競馬にお付き合いをしたあと、帰りにどこかで食事をしようと別に1万円を持っていった。
 結局、軍資金の5000円はなくなってしまったが、中京競馬場の帰りに生け簀レストランで夕食を摂り、その店で解散となった。
 気遣いで、ものすごく疲れた1日であった。
 三菱重工の資材課の主任というのは、どの会社への部品発注をするか、その裁量権を握っており、年間何億単位の発注でも主任の一存で決められていた。
 その資材課の主任だけでなく、外注先の部品の進捗管理を行っている生産管理課の係長やプレス金型や治具を管理し、外注の技術指導を行っている生産技術課の主任の中にも競馬の好きな人がいた。
 営業担当になって十数年間、土日曜日には得意先の人と連れ立って、中京競馬場や名古屋金山の場外馬券売り場にはそれらの人たちとよく行ったものである。
 そうした人たちとおおよそ半日、ワイワイガヤガヤと騒ぎながら過ごし、冗談を言いながらも、係長や主任の立場で知り得たマル秘情報を何気ない会話の中で、そっと漏らしてくれた。
 私の中で、点でしかなかった得意先の不確かな情報が、ここで聞かせてもらったいくつかの情報で、はっきり線として繋がったことが、過去、何度もあった。
 その情報を得ることで、ライバル会社に先駆けて受注活動が可能になり、受注に成功した部品はいくつもあった。
 Retireしているが、私にとって競馬場や場外馬券売り場は、あのころと佇まいは変わっておらず、28年間も営業担当をしていた私にとって「兵どもが夢のあと」だと言っていい。
 今はコロナ禍で、場外馬券売り場に行くのを避けている。また中京競馬場はネットで座席予約ができるが、駐車場代やら弁当代やらのほかに指定席代を加算すると私にとって大きな出費となる。市の公園で働いてはいるが、私にはその出費はいかにも大きな痛手である。
 それを考えて、今はパソコンでネット投票をしている。

 競馬ファンが手に入れる情報は、スポーツ新聞や競馬専門誌の10紙程度でそう大きな違いがあるはずもない。またその推理に役立つファクターもせいぜい10項目程度で、推理の工程や方法も大同小異である。なのに、それぞれの競馬ファンは自分の推理と勘と信念に基づいて、適当に馬券を購入する。その思惑のバラツキが、人気を適当に散らばらせていく。
 そして実際のレース結果はと言えば、テンデバラバラ、レースが終わればあちこちで夢破れた大きな溜息が漏れてくる。
 だからこそ、競馬というギャンブルが成立している。ことほど左様に、人それぞれに生きてきた環境や価値基準で、購入する馬券が違ってくる。
 競馬というゲームをこよなく愛した人が、似たような環境に置かれて、似たような情報を与えられても、人間の意見や判断は相当に異なってくる。むしろ、それが当たり前のことだと言える。
 つまり、自由な発想で社会規範を守り、他人の自由を尊重して、自分も自由に行動していくということは、ある価値観の範囲の中でバラツキが出て、意見や判断が異なるのは、むしろ正常な社会という証しということになろうか。
 【人が長生きする秘訣】とは、他人と自分との間に意見や判断の違いがあっても、その差異に対して憤ったり、遠ざけたりするるのではなく、自分の気持をコントロールしつつ、差異を認めて徐々にクールダウンさせる術を会得することではないだろうか、
 だが、競馬ファンは相手と自分の価値観の差異は認めても、自分の推理と勘と信念を変更しようとはしない。
 どれだけ多くの人の推理と勘と信念が集結しても、最終結果を予想することはできないと競馬ファンは思っているからである。
 それは、誰にも自分の人生の結果が予測できないのとよく似ている。

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