彼は名古屋大学の法学部を出て、弁護士になる夢を叶えた

 私は現在、市の公園のバーベキュー場でアルバイトをしている。
 私たちバーベキュー班は現在、男性10名と女性4名、計14名のメンバー構成となっている。公園にはもう1つ、除草班があるが、その班は男女合計26名で構成されている。
 以前、バーベキュー班は男性12名と女性5名の17名編成で、除草班は男女合わせて30名であった。
 その47名のうち、市のカラオケ同好会に所属している人が5名もいた。年齢的には72歳から76歳であつたが、3年も経たずにその5名は心臓麻痺で亡くなったり、心筋梗塞などで体調を崩したりして、今ではその5名は公園の仕事ができなくなり、辞めていった。

 市民体育館や勤労会館で歌謡祭が開催されると、私は1日がかりで歌謡祭の歌を聞きに出かけていった。同年代の人が歌うのを聞くのが好きだからである。
 コロナ禍に前まで、私の住んでいる市には9つの公民館があり、そこには4つのカラオケ同好会と、地域の企業の社員で構成されているカラオケ同好会が2つあった。それぞれの練習日が重ならないように上手く調整していた。
 私は現在、コミュニティ推進委員会の広報部会の役員をやっている。そして地域自治区の青色パトロールのメンバーにもなっているので、地域の公民館には月に2回ほど行っているが、そのたびに2階のホールから歌声が聞こえてくるようになった。コロナ禍でもカラオケ同好会は復活したようである。
 3月には、社協の歌謡祭が復活された。私も待ちわびていたので、開演から終演まで会場にいて、同年代の歌を聞いていた。顔見知りの人も何人か出演していたので、懐かしい気持になっていた。
 例年なら名の売れていないプロ歌手の出演があるのだが、さすがに中止となったようである。

 市の社協に届けが出ているカラオケ同好会に所属していれば、歌謡祭とか、芸能祭とかには、誰でもエントリーできて、舞台で歌えるそうだが、当然、参加費用を支払わなければならない。
 その参加費用について、こっそり訊いてみると、会場の大きさにもよるが、8千円から1万円とのことである。そのほか貸衣装代にも1万円前後が必要で、1回の出演で2万円近くの費用が掛かるとのことであった。
 また、選曲した歌の歌詞は2番までと決まっているそうである。
 舞台から歌詞が見える位置にモニターが設置されていて、そこに映し出される歌詞は1番、2番、3番と徐々に切り替わっていく。そこで歌う本人は歌詞を間違えることを恐れて、まず3番を歌うことはないそうである。
 歌詞の2番までということは、舞台に立って歌っている時間は、3分弱ということになる。それで貸衣裳代を含めて、参加費用が2万円というのはかなりの出費である。
 カラオケ同好会に所属し、ただ好きな歌を練習しているだけなら、趣味とも言えるが、カラオケ大会への出場となると、これは趣味の域を超えて、もう道楽だと言えるのかも知れない。
 考えてみれば、私という人間は酒もタバコもやらず、グルメにも興味がなく、時間を忘れるほどの趣味も持たず、まして我を忘れるほどの道楽など持ち合わせてはいない。
 幸せ度合いから言うと、道楽を持っている人に比べると、私の幸せ度合いのランキングは下位の方である。
 道楽がどうのこうのという以前に、この歳になるとリアルに楽しければ、それでいいのかも知れない。
 そう言えば、2016年の9月に亡くなった高校3年のときに最も仲がよかった友だちは歌を歌うことが好きだった。
 私がその彼とよく歌ったのは歌謡曲ではなく、バンカラ学生が歌っていた与謝野鉄幹が作った「人を恋ふる歌」であった。
 私はときどき、彼を思い出しながら、「妻をめどらば 才たけて」と口ずさむことがある。
 不思議なもので、最近のことはよく忘れるが、半世紀前なのに彼と声を合わせて歌った情景が蘇ってくる。
 彼は名古屋大学の法学部を出て、弁護士になる夢を叶えた。
 だが、私には「ダンテの奇才」もなく 「バイロン、ハイネの熱」もなく、ただ流れに身を任せてきただけで、とうとう雑誌の編集者になる夢を叶えることはできなかった。

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