家庭に対する世界観が少し変わったように思えた
今日、瀬尾まいこさんの『卵の緒』を読み終えた。
この作品は2001年に第7回坊っちゃん文学賞大賞を受賞した作品だそうである。不勉強かも知れないが、書店に行くと新刊の本の帯に惹句のように書かれてあったりして、時折り目にすることはあったが、実は私は「坊っちゃん文学賞」がどんなコンセプトで設立された文学賞なのかを知らなかった。
ネット検索をして、これまでの受賞者一覧表を眺めてみても、私の知った名前の作家を一人も見い出すことができなかった。
この事実を見ても世の中に受け入れられるには、いかに受賞作品の次に上梓する作品が重要であるかが分かる。つまり、受賞作品のほかにいかに多くの作品を習作として残しているかが小説家として成功するかの決め手であり、さらに次に連なるプロットをいかに多く自分の中にあたためているのかがキーポイントとなる。
そういった意味からすると瀬尾さんは、今や第一線の小説家として世の中に認められているのは、自分の立ち位置をしっかりと認識して、自分の描こうとするテーマをしっかりと決めて一貫性を持たせているためではなかろうか。これまでに読んだ瀬尾さんの小説から垣間見えてくるテーマは親子、家族のような気がする。
蛇足覚悟で言うと、小説家志望の瀬尾さんにとってたまたま自分の小説の評価を託したのが公募形式による「坊っちゃん文学賞」であり、その後に自分の中の幾つものプロットを具体的な小説に具現化して、その小説が世の中に受け入れられて、今の位置をゆるぎないものにしたように思う。
そのきっかけとなった『卵の緒』は処女作だという気負いはまったくなく、事件らしい事件もなく、ドラマティツクな展開もなく、妙な誇張もない。同時に収められている『7's blood』についても同様のことが言える。
だが、読み終わると何か暖かいものが心に残っていて、人間っていいなと思わせてくれる。
『卵の緒』は次のような唐突な一文から始まる。
<僕は捨て子だ。子どもはみんなそういうことを言いたがるものらしいけど、僕の場合は本当にそうだから深刻なのだ。>
小学生の育生は母親の君子と2人暮らしだが、自分は捨て子ではないかという疑念からへその緒を見せてと母親に迫る。母親はそんな息子の要望に卵のかけらを見せ、オマエは卵で生んだと煙に巻く。そんなことより、母親は育生を目一杯愛していることを何かに付けて、声高に語って聞かせる。息子である育生をいかに愛しているかを自信たっぷりに言うことが母親である自分の強い愛情表現だと頑なに信じている。
親子や家庭という絆は互いの愛情や信頼があってこそ築かれる。君子が同じ職場の男性と再婚して、新しく家族となるときの食事風景が何とも心温まるような描写で、作家の家庭への憧憬らしきものが伺えて、読後感が実に心地よい。
『7's blood』は、高校生の七子と、亡き父親が愛人に生ませた小学生の弟・七生との日常生活を描いている。
七生の母親が障害事件を起こして刑務所入りし、七子の母親が彼を引き取るが、その七子の母親も突然倒れて入院してしまい、2人だけの共同生活となる。突然生じた姉弟関係への戸惑いつつ、日常を共にすることで生ずる幾つもの心理的な葛藤を乗り越えて、次第に姉弟の2人の絆が強まっていくという物語である。
瀬尾さんの描く家庭は、いわゆる躾の厳しいが優しい両親がいて、聞き分けのいい子どもがいて、家族が互いに愛情を持ち合わせている理想の家庭ではない。
だが、どこかが不完全な家庭でも人を信じることはできるし、周囲の人に絶えざる愛情を注ぐことができるのだと瀬尾さんは小説の中で押しつけがましくなく、そっと提示してくれている。読み終わったあと、世の中の家庭という世界が少し変わったように思えるのは、この小説が秀逸だという証しなのかも知れない。
いずれにしても、上の孫娘が中学生になったら、この瀬尾さんの『卵の緒』を読むように薦めてみたい。
この作品は2001年に第7回坊っちゃん文学賞大賞を受賞した作品だそうである。不勉強かも知れないが、書店に行くと新刊の本の帯に惹句のように書かれてあったりして、時折り目にすることはあったが、実は私は「坊っちゃん文学賞」がどんなコンセプトで設立された文学賞なのかを知らなかった。ネット検索をして、これまでの受賞者一覧表を眺めてみても、私の知った名前の作家を一人も見い出すことができなかった。
この事実を見ても世の中に受け入れられるには、いかに受賞作品の次に上梓する作品が重要であるかが分かる。つまり、受賞作品のほかにいかに多くの作品を習作として残しているかが小説家として成功するかの決め手であり、さらに次に連なるプロットをいかに多く自分の中にあたためているのかがキーポイントとなる。
そういった意味からすると瀬尾さんは、今や第一線の小説家として世の中に認められているのは、自分の立ち位置をしっかりと認識して、自分の描こうとするテーマをしっかりと決めて一貫性を持たせているためではなかろうか。これまでに読んだ瀬尾さんの小説から垣間見えてくるテーマは親子、家族のような気がする。
蛇足覚悟で言うと、小説家志望の瀬尾さんにとってたまたま自分の小説の評価を託したのが公募形式による「坊っちゃん文学賞」であり、その後に自分の中の幾つものプロットを具体的な小説に具現化して、その小説が世の中に受け入れられて、今の位置をゆるぎないものにしたように思う。
そのきっかけとなった『卵の緒』は処女作だという気負いはまったくなく、事件らしい事件もなく、ドラマティツクな展開もなく、妙な誇張もない。同時に収められている『7's blood』についても同様のことが言える。
だが、読み終わると何か暖かいものが心に残っていて、人間っていいなと思わせてくれる。
『卵の緒』は次のような唐突な一文から始まる。
<僕は捨て子だ。子どもはみんなそういうことを言いたがるものらしいけど、僕の場合は本当にそうだから深刻なのだ。>
小学生の育生は母親の君子と2人暮らしだが、自分は捨て子ではないかという疑念からへその緒を見せてと母親に迫る。母親はそんな息子の要望に卵のかけらを見せ、オマエは卵で生んだと煙に巻く。そんなことより、母親は育生を目一杯愛していることを何かに付けて、声高に語って聞かせる。息子である育生をいかに愛しているかを自信たっぷりに言うことが母親である自分の強い愛情表現だと頑なに信じている。
親子や家庭という絆は互いの愛情や信頼があってこそ築かれる。君子が同じ職場の男性と再婚して、新しく家族となるときの食事風景が何とも心温まるような描写で、作家の家庭への憧憬らしきものが伺えて、読後感が実に心地よい。
『7's blood』は、高校生の七子と、亡き父親が愛人に生ませた小学生の弟・七生との日常生活を描いている。
七生の母親が障害事件を起こして刑務所入りし、七子の母親が彼を引き取るが、その七子の母親も突然倒れて入院してしまい、2人だけの共同生活となる。突然生じた姉弟関係への戸惑いつつ、日常を共にすることで生ずる幾つもの心理的な葛藤を乗り越えて、次第に姉弟の2人の絆が強まっていくという物語である。
瀬尾さんの描く家庭は、いわゆる躾の厳しいが優しい両親がいて、聞き分けのいい子どもがいて、家族が互いに愛情を持ち合わせている理想の家庭ではない。
だが、どこかが不完全な家庭でも人を信じることはできるし、周囲の人に絶えざる愛情を注ぐことができるのだと瀬尾さんは小説の中で押しつけがましくなく、そっと提示してくれている。読み終わったあと、世の中の家庭という世界が少し変わったように思えるのは、この小説が秀逸だという証しなのかも知れない。
いずれにしても、上の孫娘が中学生になったら、この瀬尾さんの『卵の緒』を読むように薦めてみたい。
"家庭に対する世界観が少し変わったように思えた" へのコメントを書く