久し振りの競馬場

 今日は久し振りに中京競馬場に行ってきた。中京競馬場は今開催中で、明日は中京競馬場で唯一開催されるG1の「高松宮記念」レースが挙行される日で、私は今日、開催されているレースを見がてら、その「高松宮記念」レースの前売りを買いに行ったのである。今年に入って、初めてのことだが、土曜日にしては、凄い人出である。画像
 なぜ、急に中京競馬場に行く気になったかと言えば、去年11月中旬に私はアキレス腱を断裂し、自分の自由が利かなくなって、家に閉じ込められたのをキッカケに、これまで50年の間に読んできた古い本を整理していた折に、フリー競馬ライター島田明宏氏が1997年に著した『「武豊」の瞬間』という本を見つけて、最近、暇を見つけて読んでいて、昔、客先の人と一緒にあちこちの競馬場に行っていたことを懐かしく思い出していて、急に競馬場に行きたくなってしまったのである。
 確かに競馬が好きになった端緒は、客先の発注担当の人が競馬が好きだったからだが、その客先の発注担当が東京本社に栄転になってからも、競馬観戦をずっと継続していたのは、やはり、天才騎手武豊氏の出現が大いに影響している。
 去年2008年、関東に三浦皇成という凄い新人騎手が出てきて、武豊騎手の新人記録を次々に破りつつある。そして、2009年1月には、早くもNHKのドキュメント番組「にっぽんの現場」や「トップランナー」にも出演し、その偉業を称えられていた。
 だが、私の独断ではあるが、もうこれ以上、三浦皇成騎手は武豊騎手の記録を追い越せないであろうと思う。
 何故、大いにチャンスが与えられている、こんなにも早い時期に私がそう確信するかと言えば、理由は二つあるが、その理由を語る前に、競馬の騎手について、島田明宏氏が『「武豊」の瞬間』の中で、見事に書き表している箇所があるので、その部分を抜粋してみることにする。
 <騎手は、ただ速く走るために作られたサラブレッドに跨がり、時速70キロのトップスピードで腕を競う。爪先と、手綱を握る両手で間接的に馬に触れるだけの不安定な姿勢で馬を御す。手綱がハンドルにもブレーキにもなるが、クルマのようにハンドルを右に切れば右に曲がるわけではなく、ブレーキを踏んだからといって止まるとは限らない。騎手は、厄介な乗り物を操作するレーサーであり、アスリートなのである。
 とはいえ、瞬発力、持久力などの絶対的運動能力が問われるわけではない。「馬7人3」の割合で勝敗を左右すると言われているが、つまるところ走るのは馬である。騎手が、例えば自身の握力を5キロ強くしたからといって、それがそのまま成績アップにつながりはしない。確かに、騎乗技術と経験に裏打ちされた判断力がモノを言うのだが、ある意味では努力のしようがない職業と言える。>
 ここの中にも書かれているように、騎手は【瞬発力、持久力などの絶対的運動能力が問われるわけではない】というのは的確な指摘である。NHKのドキュメント番組「にっぽんの現場」や「トップランナー」を観て思ったのは、確かに三浦皇成騎手は体力面の全てで、武豊騎手を上回っているように私には思えたが、ただ、それだけでは競馬は勝てないのである。
 それでは、何が騎手にとって必要な資質なのであろうか。実際に馬に騎乗して得られる感触から、馬の潜在能力を即時に把握できてしまう優れた五感と言ったらいいのであろうか。
 武豊騎手は騎手になって2年目、1988年にスーパークリークという馬に出会った。彼はこのスーパークリークでクラシックの菊花賞に出場したかった。彼には、菊花賞の騎乗馬として、ダートで4連勝中のケイコバン、春のきさらぎ賞を勝ったマイネルフリッセ、トライアルの京都新聞杯で3着に入ったメイショクボーイなど、すでに出走権を獲得し、スーパークリークを実績で上回る馬が厩舎から用意されていたのである。にも関わらず、彼はあくまでもスーパークリーク騎乗にこだわりつづけた。私はこの話を聞いたとき、何と鼻持ちならない奴だと心の底から思っていた。
 スーパークリークは運よく、抽選で出走権を獲り、念願のスーパークリークに騎乗した武豊騎手は騎手2年目で、誰もが見開く見事な騎乗でクラシック三冠の一つ、菊花賞を制したのである。騎手に優れた五感が備わっていることがいかに重要かが証明された瞬間でもあり、その優れた五感を騎手になってわずか2年目の武騎手が持っていた証左でもあるのだ。これが三浦皇成騎手が武豊騎手を超えられないだろうという理由の一つである。
 そして、もう一つ、騎手にとって大事なことは、馬の癖を調整し、修正する能力だと私は思っている。
 これ程までに、競馬の人気が盛り上がったのは、サブレッドの中にアイドルが出現したことが大きいのではないだろうか。その1頭が地方競馬出身のハイセイコーであり、もう1頭が同じく地方競馬出身のオグリキャップであろう。そして、オグリキャップが有馬記念に優勝したとき、17万を超える競馬場のファンが1頭のサラブレッドの名前を連呼し、地響きのようにこだました光景を目の当たりにして、私は全身の総毛が震えたのを今でも覚えている。
 そのオグリキャップに騎乗していたのが、武豊騎手であった。それまで、オグリキャップは春の宝塚記念、秋の天皇賞、ジャパンカップに惨敗し、限界説が囁かれていた。騎乗依頼を受けた武豊騎手は、オグリキャップの調教に乗って吃驚した。以前、騎乗依頼を受けて調教したとき、彼が感じたことは、オグリキャップは元々右手前で走るのが上手な馬で、直線に入って左鞭で追い出すと、それまで右手前で走っていた手前をスムーズに左手前に変えて、加速する闘志溢れる強いうサラブレッドであった。
 ところが、有馬記念の調教では、直線に入っても手前を変えず、闘志も感じられず、単なる普通のサラブレッドに変貌していた。競馬を知らない人には、理解し難いことであろうが、直線で手前を変えるというのは、もう一つ、馬がスピードを上げるためのギアーチェンジのようなものである。
 彼は根気よく、オグリキャップにいいときの感触を思い出させるために、調教師に芝での調教を申し出る。競馬界では、一騎手が調教師に調教方法の変更を申し出るというのは、タブーに近い出来事である。彼は、オグリキャップにレースに対する闘志を思い起こさせ、スムーズにコーナーを回り、手前を変えさせるために、芝での調教を進言したのである。
 その目論見は見事に当たり、オグリキャップは闘志を蘇えらせ、有馬記念に優勝した。
 三浦皇成騎手が武騎手を越えられないだろうと私が思った二つ目の理由はここにある。馬の個性を捉えて、癖さえも修正させてしまう感性が、私の見る限り、三浦皇成騎手には申し訳ないが、備わっているように思われないからである。
 ただ、それは、NHKのドキュメント番組「にっぽんの現場」や「トップランナー」から、私が受けた印象で、心のどこかで、私の目が節穴であってほしいという気持が皆無ではないことだけは、ここに記しておかねばならないであろう。
 明日の高松宮記念には、武豊騎手はドバイに出張していて、どの馬にも騎乗できない。残念。

 【追記】 
 <武豊騎手が前人未到の3200勝 阪神6Rで達成 > スポーツ報知(4月12日)
 武豊騎手(40)=栗東・フリー=は、12日の阪神競馬6Rをアグネスナチュラルで勝利し、史上初のJRA通算3200勝を達成した。87年3月のデビュー以来、1万5247戦目での達成。JRA重賞は257勝(うちG1・62勝)。同騎手は2007年7月、岡部幸雄元騎手の持つ2943勝(歴代2位)のJRA最多勝記録を更新すると、11月3日の京都1Rで前人未到のJRA通算3000勝を、昨年6月15日に3100勝を達成していた。

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