残存している日本人の原風景

 私が今、役員をしている町内の軒数は76軒である。
 その76軒の中には、理容店が3軒、美容院が1軒、含まれている。対人口比率から見ると、ものすごく高い比率であるのに、それでも店の経営が成り立っているのであるから、不思議でならない。
 美容と理容の違いをインターネットで調べてみると、次のように解説してあった。
 【美容(びよう)とは、容姿を美しくすることをいい、理容(りよう)とは、容姿を整えることをいう。おおまかには女性を対象としたものが美容、男性を対象としたものが理容とされることが多い。】
 美容や理容が、この解説通りであるとするならば、とても私が住んでる町内だけのお客の数では、とても経営は成り立たない。と言うことは、町内以外の客を多く抱え込んでいることの証明でもある訳だが、ちなみに、途中で移転してきた私は、未だに町内の理容店を一度も利用していない。高校生時代から通っていた理容店が、駅前近くにあったからである。
 ところが、5年前に、私の家から、駅方向に歩いて10分程のところに、ディスカウント理容店がオープンした。理髪の作業分担をはっきりさせ、理髪時間の短縮を図ることにより、合理化ができるようになったのか、大人の理髪料金が1,900円ということで、私はそれこそ、後ろ髪を引かれる思いで、会社をRetire後、以前通っていた理容店から、そのディスカウント理容店に乗り換えた。
 収入が限られた金額になり、私としては節約のためだったが、理髪の工程は全く同じで、その店が手を抜いているとは到底思えなかったことも、乗り換えを決断した理由だったし、60歳以上の人は10%引きで、65歳を超えると1,600円というのも、私には魅力だったからだ。
 私が住んでる町内の理容店で、もう一つ気になることがある。美容院の詳しい料金のことは余り、私には分らないが、町内3軒の理容店の大人の通常料金は、3,000円で統一されていることである。
 私が見る限り、そのディスカウント店は次第に地域に密着し、客を増やしていって、今ではウィークデイの午前中に行っても客が満員である。だが、私の町内の3軒の理容店は、3,000円の料金は未だに据え置きのままで、一見、ディスカウント店の影響を受けていないように思える。
 私のように、サラリーマン時代、営業担当を28年もやってきた者から見ると、やはり、こうした現象が不思議に思えて仕方がなかったが、最近、その理由がおぼろげながら、分ってきたような気がしている。
 私のガキの頃は、風呂屋と床屋は、町内の情報交換の場であり、気の合った仲間同士でオシャベリを楽しむ場所でもあった。言わば、場所を変えた井戸端会議のようなものだ。
 最近、何かと言うと、人生の先輩である組長さんや副組長さんと打ち合わせをしていると、その話の中でもやはり、理容店での噂話の情報がよく披露され、町内の中で起きている情報の速さに吃驚させられることがある。
 サラリーマン現役時代には、気が付かなかったが、今尚、理容店では、私のガキの頃の床屋の役目を果たしており、町内の団欒の場を提供していることが分ったのだ。
 と言うことは、私が住んでる地域では、まだ昭和30年代の日本人の原風景が残存しているという証拠で、3軒の理容店が、未だに、同じ理髪料金で経営が成り立っている隠れた理由が、遅まきながら納得できたのである。
 余談だが、私は今年、まだ63歳であるのに、いつも店員に、理髪料金は「1,600円です」と言われる。このときばかりは、1,900円を払いたくなるのは、私の生来の見栄っ張りのせいなのであろうか。

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