私の子供の頃に言われていた「四十肩」は、現在では「五十肩」と呼ばれている

 もう、65年以上も前のことだが、よく母親が「四十肩五十腰」という言葉を使っていた。
 母親が、40代を迎えて間もなく、神棚にお神酒を上げようとして、腕を肩の高さ以上に上げようとしたところ、急に痛みが走り、その場にしゃがみこんでしまったことがあった。しゃがみこんだ母親は、とうとう、「四十肩五十腰」を患う歳になってしまったと嘆いていたことを昨日のことのように思い出す。
 それから、夜、私は母親の布団に入り込んで、肩をさすってあげたり、今まで、ついぞ手伝ったことがなかった母親の仕事を手伝ったりすることが多くなった。
 そのころ、母親が肩痛がひどくて、最も苦労していたのは、自家製味噌を作るために、二つ合わさった石臼の上の穴から原料の大豆を入れ、下の石臼を自分の両足で固定して、上の石臼に付いている木製の取手をゴロゴロと回しながら、大豆を挽いていくことであった。
 私は石臼挽き以外の手伝いはすぐ飽きて、母親をがっかりさせていた。だが、この石臼挽きだけは好きで、私は用意された大豆がなくなるまで、挽き続けていたものである。
 その後も、母親の「四十肩五十腰」は、私の気付かないうちに直っていたが、小学校を卒業するまで、私の「石臼挽き」は続いていた。
 それは母親との数少ない楽しい思い出ともなっていた。
 母親が嘆いていた「四十肩五十腰」という言葉は、現在では、「五十肩」と呼ぶことが多いようである。35年間、看護師をやってきた私の女房に言わせれば、「五十肩」は30代、40代で患う人も多いとかで、30代、40代の人が罹っても、やはり、「五十肩」との呼称でカルテにも書かれるそうで、正式には、肩関節周囲炎と言うとのことである。
 そう言えば、還暦を迎えたときの中学のクラス会で、同じテーブルを囲んだエミちゃんが、立ち居振る舞いのたびに苦労していたので、「どうしたの?」と尋ねると、「今の歳になって、五十肩になっちゃたの。」と言っていた。
 私が、「俺たち、もう60代だから、六十肩じゃないの?」と冗談を言うとエミちゃんは、「五十肩は、幾つの人が罹ろうが、五十肩なの。」とシッカリ睨まれてしまった。
 おそらく、エミちゃんにすれば、私の冗談を冗談で切り返せないほど辛かったに違いない。
 実は、私は70歳になる今まで、五十肩を経験したことがなかった。
 それも1年も経つと五十肩は直っていた。
 その代わり、最近、私は腰に筋肉痛のような鈍痛が、時折、夜中に不意にやってきて、目を覚ますことがある。毎朝、布団から起き上がるのが辛いほどである。
 もう、鈍痛が出てから相当な日にちが経つが、未だに本調子とはならない。寝ても立っても、横になっていても、長い時間、同じ体勢でいるとまた、腰が痛くなり、集中力も散漫となる。
 私の場合は、1960年代に言われた「四十肩五十腰」のケースなのかもしれない。
 ただ、今は時代も変わり、「五十肩七十腰」と置き換えたほうが、ピッタリする気がしてならない。
 このところ、市の公園で動き回って働いていると、次第に膝が痛くなってくる。1週間ごとのかかりつけの整形外科医のところに行き、ヒアルロン酸の注射をしてもらい、膝にたまった水を抜いてもらっている。そんなことがもう2カ月以上も続いている。
 そうした事情もあり、バーベキュー場の利用者が少なくなる12月から、しばらく市の公園で働くのを控えて、あたかもヤジロベエが時間を掛けてバランスを取るように、私も心と体の調和が訪れる日がくることを信じて、様子を見ようと思っている。

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