定年後の人生計画を立てることなど、頭の隅に露ほども思い浮かばなかった

 私は市の公園のバーベキュー場でアルバイトをしている。
 今日、3月度の勤務スケジュール案が出てきた。3月22日までに、変更依頼を提出すれば、出勤日は変更できることになっている。
 バーベキュー場はコロナ禍で31サイトのうち、16サイトしか貸し出しをしていない。いつ、31サイトのすべてが貸し出されるのか、今のところ予測がつかない。
 例年、バーベキューシーズンが始まるのは3月からである。
 ここ2年ほどシーズンオフになると、私の月の出勤スケジュールを見て、昼の休憩時に、私のところにやってきて、30分ほど話し込んでいく人がいる。自分と同じ匂いを、私に感じているのかも知れない。
 その人の名は 通称イッサンと言い、去年の3月まで、ある建築会社の営業部長をしていた人で、その年の10月から転職して、今の会社に勤め出したとのことである。年齢は、今年の秋で66歳になるそうである。
 私のあだ名はイッサなので、イッサンというあだ名には理由もなく親しみを感じる。
 今日も昼、私のところにやって来て、今の会社での宮仕えの辛さをしみじみ語る。
 イッサンは声をひそめて、私の耳元で「ISSAさん、今のわたし、いくら、給料を貰っていると思われますか?」と囁きかけてくる。私が「フルタームで働いているのだから、大分多く、貰っているんじゃないですか」とフェイント気味で尋ねてみると、 イッサンは「ズバリ、言います。時給950円ですよ。ひと月フルに働いても、20万円にもならないんです。実は、わたし、前の会社では、年収1,000万を超えていたんですよ。その時代の気分が未だに抜けきれなくて、惨めさから解放されていないんです。」としみじみと語る。
 確かに、イッサンの話を聞けば、その落差はショックであるに違いない。ならば、前の会社で定年延長した方がよかったんじゃないかと尋ねてみると、定年過ぎて前の会社にいても、給料は今の会社と殆んど変わらない。それが嫌なら、会社を辞めろと言わんばかりの対応だったとのことである。
 給料が殆んど変わらなければ、しがらみを引きずる分、前の会社に勤めている方が、イッサンにとっては辛いことなのかも知れない。
 ここにも、典型的な会社人間の人がいる。
 働き詰めで停年を迎え、ボロ雑巾のように会社を追われる。給料が、4分の1、5分の1になってもよければ、停年延長で再雇用しますとアッサリ言われ、ちっぽけなプライドを保つことさえも許されず、石持て追われるごとく、会社を去っていく。
 団塊の世代の30、40代はそれこそ、イケイケドンドン、腕力だけで世間を渡ってきた。ところが、50代になると、腕力だけでは解決できないことが多くなり、攻めることしか経験値のない悲しさで、とてもじゃないが臨機応変に対応できない。
 気が付けば、停年はそこまできている。
 終身雇用と年功序列という会社との永遠の契りは、無残に打ち砕かれ、企業戦士の魂だけが、社会という果てしない大海を漂っている。
 やがて、懐かしさでしか今を語れなくなり、その懐かしさも、現役時代との給料の格差にたじろぎつつ、日々の生活に追われ、気持だけが空回りをしている
 イッサンの世代と団塊の世代を一括りで語るのは、正確ではないにしろ、ヒネクレ者の私には、概ね、そんな図式に見えてくる。
 イッサンはしみじみと語る。
 「ISSAさん、今更、遅いんですが、定年後の身の振り方は50代に入ったら、停年までに貯蓄して、定年後は、何をやって生活するか、そうした計画をすぐに考えなきゃ、いけなかったんですよね」
 私よりも10歳も歳下だが、ここにも定年後に生きがいを持ち、バランスのいい日常を送れない企業戦士がいた。
 現役サラリーマンのときには、私も定年後の人生計画を立てることなど、頭の隅に露ほども思い浮かばなかった。

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