【友だち以上恋人未満】の女性とはもう会わないと心に決めていた

 私は【友だち以上恋人未満】という関係で10年以上も手も握らず、当然、肉体関係もなく付き合っていた女性がいた。
 だが、62歳で会社をRetireしたとき、年金生活に入ったことやビジネス英語を学びたかった外国語学校への授業料を支払いもあり、付き合いを止める決心をした。
 それより何より、私がサラリーマン時代によく行っていた小料理屋の女将の言葉の影響が大きかった。

 私は会社をRetireしてからもサラリーマン時代から、15年以上も馴染みとして、公私の別なく通っていた小料理屋があった。その小料理屋は名古屋住吉町にあった。
 小料理屋というところは、午後9時半を過ぎると、打ち寄せてきていた荒波が一挙に引くように、一気に客が引いていくものである。
 ある晩、後片付けの終わった女将が私の隣の椅子に座り、不意に私に語りかけてきた。
 「ISSAさん、何か勘違いしていませんか?」といきなり、挑戦的な言葉で問いかけられて、私は仰天した。
 60歳を超えてから、癌かも知れないと医者から言われ、それがもとで、落ち込んだ生活を送るのはいかに自分の人生をいい加減に扱っているかを証明しているようなものだと、女将は言うのである。
 さらに女将は私に問いかける。
 「残りの人生の長さによって、人生の幸せの形も変わってくるし、物事に対する執着度も当然、変えていかなきゃいけないものじゃないんですか。残りの人生が30年ある人と10年しかない人とは、決断の速度に差はできてくるだろうし、割り切りも早く決断しないと自分の人生の満足度の濃淡が変わってきてしまうものですよ」と語る。
 女将は自ら人生の残りの長さを自覚し、若い頃と違った基準で判断して、臨機応変に自分の生き方を変えてきた。それが本当の大人というもので、あなたはそれができていないと詰め寄っている。
 更に女将が詰め寄ってくる。
「【友だち以上恋人未満】の関係を、10年以上も続けてきたなどということは、むしろ恥ずかしいことで、まして純愛なんて種類のものでもなく、今のあなたにとっては勲章でも何でもない。単なる知り合いで一時期ちょっと仲良しだっただけのことで、その女の人にとって、ISSAさんは本当に都合のいい人って感じで、自分もそれに満足していただけじゃないの。もうそろそろ大人にならなきゃ」と14歳の歳の差なんて、およそ関係ないとも言いたげに私を諭しにかかる。
 女将は、鹿児島の高校を卒業し、愛知県一宮市の工場でOLをしたあと、結婚し、25歳で男の子を産んで、詳細な事情は分からないが、子供が産まれる前にご主人と別れ、自分の手一つで、誰にも頼らず子供を育ててきた。
 多分、私以上に辛い選択を決断する機会が数多くあったに違いない。
 その都度、残りの自分の人生を数え、少しずつ自分の決断基準を変えざるを得ない状況に自分の身を置いてきた。
 女将の言葉には、常に真剣に【人生とは】と考え抜いてきたという自負が伺える。
 「自分の都合のいい日に、自分の行きたいところへ付き合ってくれる男の人がいて、10以上経っても恋愛関係に発展しないなんて、結局は利用されていたと思う方が自然でしょ? ISSAさん、デートしたい気になったら、いつでも電話頂戴。【友だち以上恋人未満】の関係で、喜んで付き合ってあげるから」
 女将が放った渾身のブラックジョークが、ずしんと私の胸に響いてきた。
 さらに女将は「ISSAさん、お願いだから、年金だけで暮らそうなんて考えないで。ボランティアでも普通に働いても構わないけど、最後まで社会と関わっていてほしいの。分かった」
 私はそのとき、【友だち以上恋人未満】として付き合ってきた女性とはもう会わないと心に決めていた。
 やがて、女将は名古屋伏見に新しい店を開いて、引っ越して行ったが、その後の消息を私は知らない。

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