カズオとトモミの瞳から、涙が同時に零れ落ちた

 私がこのブログを立ち上げてから、昨日で私が書き続けてきた記事が5000を超えた。
 私の記事はだらだらと長く、いつも1400から1500字になっている。1400字で計算してもこれまでに700万字にもなる。
 私は5000の記事のうち、恋愛に関する記事を322も書いてきた。
 先だって、女優松下奈緒さん主演の連続ドラマ「アライブ がん専門医のカルテ」を観ていたら、乳がんで、乳房全摘出手術を受けることを悩む女性の話が放映されていた。
 私は10年ほど前に、このブログに乳がんで乳房全摘出手術をすることになった女性とその恋人のことを恋愛小説風に書いたことがあった。恋愛に関する記事の1つである。
 当時、その女性は得意先で海外輸出入の担当をしており、私が勤める会社の部品の輸出も彼女が担当していたので、私とその女性は月に何回か、打ち合わせをしていた。
 彼女は英語が堪能で、土曜ナイトドラマ『アリバイ崩し承ります』で活躍中の女優の浜辺美波さんによく似ていた。
 その恋愛小説風に書いた文章は次のようである。

 カズオは今年の11月が来ると32歳を迎えるが、現在付き合っているカノジョはいない。
 これまでに結婚しようと思って、真剣に付き合った子はたった一人、カオリしかいなかった。
 カオリは短大出なのでカズオとは2歳の年の差があったが、今の会社では同期入社で、ふたりとも余り歳の差を感じることはなかった。
 所属した部こそ資材部と工作部で違っていたが、たまたま社内の軽音楽サークルで一緒になってから、カズオの方から積極的にコンサートや映画鑑賞などに誘って、デートを重ねるようになった。
 丁度いい塩梅の背丈の差とか、腕を組んで歩いたときの体温とか匂いとか、雨降りのときに触れた背中とか手とかの触り心地とか、カズオは高校時代や大学時代に付き合ってきた子とは違って、恐ろしくぴったりと自分に合っているようで心地よく、自分には打ってつけの女性だと思っていた。
 野球で言えば、カズオはカオリの投げてくる渾身の直球を思い切りスィングして、目いっぱいに打ち返すつもりだった。
 だが、カオリが投げてきた球は思いも寄らず、フォークボールであった。カズオはフルスィングの末、尻もちをついてしまった。
 付き合いだして半年後、カオリから「好きな人ができたから、もうカズオ君とは付き合えない!」と引導を渡されてしまったのだ。
 恋人だと思っていたのは自分の一方的な思い込みだったのか。自分とは単なるお情けで付き合ってくれていたのか、そんなことが強迫観念のようにカズオの心を支配して、その後は女性と付き合いに尻込みをするようになってしまった。
 カズオは女性と付き合うとき、どんな状況になっても駆け引きするのは邪道だと思っていた。
 そうした頑固なまでの信念は、カオリとのことでさらに頑なまでになり、当然のようにカズオの女性に対する対応を消極的にさせていた。
 カオリの絶交宣言から9年、女性に対する願望は萎えるばかりで、膨張することはなかった。言わば、それは打つ気もないのにバッターボックスに入って、どんな種類の球が来ようとただひたすらフォアボールになるのを待っているようなものだった。
 そして、いつの間にか、女性の投げる球が直球なのか変化球なのかも見極めようとしないボンクラ・バッターになってしまっていた。
 ところが、今年になって早稲田大学の政経学部出身のトモミが5年間の海外支社勤務を終えたのち、カズオの所属する資材部に配属されてきてから、カズオの周辺が一変した。
 彼女は自分の気持を隠そうとはしなかった。カズオに向かって、ひるむことなくストライクゾーンを一杯使って、思い切りの直球勝負を仕掛けてきたのだ。
 本当は年下なのに姉のような顔をして、沈みがちなカズオを叱咤激励した。
 うわさ話が振られたカオリのことに及ぶと、喜怒哀楽の表情をモロに表して「そんな女のことは早く忘れなさい」とおせっかいをしてくる。
 トモミは寒いシカゴ勤務で鍛えたのか、お酒が強く、週末にはカズオに有無を言わさず、飲みに引っ張っていく。そして、共通の趣味である音楽や映画、本の話で盛り上がり、店がハネルまで一緒に飲んでいた。
 トモミは酔うと必ず、自分のマンションにカズオを誘おうとするが、カズオは黙ってタクシーに彼女だけを乗せるとそのまま会社の独身寮に帰って行った。
 そんな付き合い方をしながら迎えた秋の健康診断で、トモミの胸に腫瘍があるのが判明した。
 検査入院の日程が決まり、その検査結果が知らされるという日にトモミからカズオにメールが入った。一度、病院に顔を出してほしいという内容だった。
 カズオは新規商品の部品の発注業務で連日のように残業していたが、やっと発注先を決めて課長経由部長に決済を仰ぐ書類を徹夜で作成し、朝一番に提出した。無事クレームもなく認可が下りたあと、カズオはトモミが入院する病院に向かった。
 トモミは意外に元気だった。
 「乳がんだって、手術をすれば、命には別条ないって言われたの」
 「よかったね」 カズオは大げさではなく、止めていた息を吹き出し、胸をなでおろしていた。
 「カズオ君、わたしの左胸に手を当ててくれる」 トモミはカズオの右手を両手でそっと包み込む。
 「手術するとこの胸がなくなるの。ほんとにごめんね。あなたのために取っておいた胸なのに。だからね、胸がなくなる前にカズオ君に触ってもらって、わたしの胸の感触をずっと覚えていてほしいの」
 トモミの投げた直球はなりふり構わないフォームからの直球で、お世辞にもスピードがあるとは言えなかった。
 だが、バッターボックスに立つカズオには胸をえぐるような球筋に見えた。カズオはトモミのピンクのパジャマのボタンを外して、そっと左胸に手を置いた。
 「手術が成功したら、またオレと付き合ってくれる?」 カズオもまたトモミに直球を投げ込んだ。カズオとトモミの瞳から、涙が同時に零れ落ちた。

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