傑作とは言い難いが、小津安二郎作品として評価を下げることにはならない

 私はブルーレイ内蔵のテレビを買ってから、NHKBSプレミアムで放送される小津安二郎監督と黒澤明監督の映画を2年間にわって録画してきた。
 小津安二郎監督作品は『晩春』『麦秋』『彼岸花』『東京物語』『早春』『東京暮色』『秋日和』『秋刀魚の味』の8作品であり、黒澤明監督作品は『赤ひげ』『天国と地獄』『七人の侍』『用心棒』『椿三十郎』『蜘蛛巣城』『生きる』『羅生門』の8作品である。
 2013年にイギリス映画協会が世界各国の映画監督に投票を依頼して選ばれた映画のオールタイムベスト100というイベントがあった。その中に小津安二郎監督と黒澤明監督作品が選ばれている。小津安二郎監督の『東京物語』は1位、黒澤明監督の『七人の侍』は10位で、『羅生門』は11位となっている。
 「東京物語」は、「究極のホームドラマ」であり、ヨーロッパの多くの監督がその作風を模した作品を作っている。また黒澤明監督の『七人の侍』は「究極のエンターテイメント・アクション映画」という位置づけであり、模倣作品も多い。また「羅生門」は、異なる視点から同じ物語を描くという映画の新たな方法を生み出した傑作である。
 私が映画館で、リアルタイムで観たのは『秋刀魚の味』『天国と地獄』『用心棒』『椿三十郎』の4本だけであった。
 そのほかの作品はNHKBSプレミアムで放送で観たが、私はそのたびに録画しておき、これまで何度も録画を再生して、鑑賞してきた。
 ただ、小津安二郎監督の『東京暮色』は、昨日がはじめての鑑賞であった。
 この作品は多くの小津安二郎監督作品の中では、「究極のホームドラマ」というジャンルでは語れない仕上がりである。

20181207052628 (3).jpg 内容は銀行員の父親と娘2人の物語となっている。
 姉の原節子が夫との折り合いが悪く、実家である父親の元に戻ってくる場面から、ストーリーが展開されていく。父親は心配になり、娘の夫を尋ねて行くが、その変貌ぶりに驚嘆し、夫の元に帰れとは言いづらくなる。
 妹は、正業を持たない男の子供をお腹に宿してしまい、彼女は事情を2人に隠しながら、父親の知り合いや叔母に中絶費用を工面するために奔走する。
 誰にも内緒で中絶をし、一件落着となったところで、彼女は自分を妊娠させた男が通っていた雀荘に出掛けて行く。
 その雀荘で下働きする女がその話しぶりと態度から、自分の実の母親ではないかと思い始める。
 そのことを姉に問い質すと、姉は実の母親は父親が転勤中、何かと家の面倒見てくれた男と駆け落ちしたことを打ち明ける。母親がそのとき身ごもっていたことを妹は知り、自分は父親の本当の子ではないのではと疑い始める。
 そんなつらい父親の経験を子どもながらに記憶している姉は、絶対母を最後まで許すことはなかった。
 自分が父親の本当の娘ではないことを悟った妹は、自暴自棄となり、踏切で事故に遭い、死んでしまった。家族として収束の付かない状況に陥ってしまったことを知った母親は、その責任を重く受け止めて、故郷北海道に戻る決意をする。
 北海道に今の旦那と共に帰る晩に、母親は父親が済む家を訪ね、妹のために花束を姉に渡そうとするが、姉に突き返される。母親が置いていった花束を抱えながら、姉は突然、号泣する。
 北海道へ出発する電車の中で、母親は列車の窓を開けて、姉が駆けつけてくるのを待ち続ける。母親を恨む姉が見送りに来るはずもなく、次第にうなだれる。
 画面には、何とも言えない虚無感が漂い始める。
 姉は夫の元に戻り、幼な子とともにやり直してみると父親に打ち明ける。父親は黙ってそのことを受け入れる。
 カメラは翌朝、家政婦さんに見送られながら、銀行に出勤する父親の後姿を映し出す。父親の背中に俄かに寂寥感が漂いはじめる。
 暗いイメージの作品だが、これも日本の家族の一面で、意外に同じような体験を持つ父親は多いのかも知れない。
 傑作とは言い難いが、決して小津安二郎監督作品として評価を下げることにはならない。

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