私は少しの時間が空くと根本昌夫氏の『[実践]小説教室』を読んでいる

 私は現在、少しの時間が空くと根本昌夫氏の『[実践]小説教室』を読んでいる。
DSCN2873.JPG 本書の中では、小説家を目指すための具体的な方法や小説の書き方だけでなく、小説の読み方についても解説がなされている。
 当然、小説を書こうなどいう大それた望みを持っているわけではないので、専ら、本書の小説の書き方を通じて、読み方のポイントを学べればいいと思っている。
 今日は「書き出しは小説全体の縮図」という項を読んでいた。
 名作の書き出しの例として、川端康成氏の『雪国』の次のような冒頭文を上げていた。
 <【国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。】
言わずとしれた、川端康成の「雪国」ですね。
この有名な書き出しは、短い一文にもかかわらず、多くの情報を提供しています。まず、冬であること。語り手が都会からはるばる国境を越えて、田舎に来たらしいこと。列車に乗っているらしいこと。>

 これまで、この有名な書き出しについて、多くの人が解説している。
 最近では、予備校講師でタレントの林修氏が多くの小説の中で、「雪国」の書き出しが最も好きだと語っていた。
 2012年発刊の大沢在昌氏の『売れる作家の全技術』という単行本には、川端康成の『雪国』の冒頭文について、次のように書かれてあった。
 【「有名な冒頭の<国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」もいいんですが、そのあとに出てくる<夜の底が白くなった。」という文章。これがすごい。「夜」も「底」も「白い」も普通の言葉で、難しい言葉は一切入っていません。それなのに、「夜の底が白くなる」という、これまで誰も使ったことのない表現によって、なんとも言えない情感、川端康成の世界がうわーっと広がっていく、イメージが喚起されていく。】

 このブログでも、私は「雪国」の冒頭文について、次のように書き込んでいる。
 <二十歳のころ、【夜の底が白くなった】という表現に出会って、すごい表現だと思った。
 英文科の学生であった私はこの部分を英訳するとどうなるであろうかといろいろ考えてみた。だが、いくら「夜の底」を主語にして幾つも文章を作ってはみても、小説の情感を彷彿とさせるような英文は出来なかった。
 私はふとそのとき、エドワード・ジョージ・サイデンステッカー(Edward George Seidensticker)というアメリカ人が、『雪国』を英訳していることを思い出して、大学の図書館に行って、英訳本の『雪国』の冒頭部分を読んでみた。
 そこには次のような英文が載っていた。
 「The train came out of the long tunnel into the snow country. The earth lay white under the night sky. The train pulled up at a signal stop.」(国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。)
 日本の小説の文章には主語が省かれることが多いので、英訳するときには苦労する。だが、サイデンステッカー氏がこの冒頭の文の主語を汽車としたのは、さすがで成る程と納得させられた。
 <out of>と<into>を使って、汽車が今まさに雪国に到着したという臨場感を表現していることにも私は吃驚してしまった。
 そして、肝心の【夜の底が白くなった】という部分の英訳は【The earth lay white under the night sky.(夜空の下に大地は白く横たわっていた)】となっていた。私はその英訳を読んで、身震いするほど感動してしまった。
 私は小説の原文を読むよりも先に、半年掛かりではあったが、サイデンステッカー氏の『Snow Country』を読んだ。>
 私は会社をRetireしてから、日本語の「雪国」を再読してみた。1937年(昭和12年)6月に創元社より刊行されて、80年以上になるが、やはり新鮮であった。

 また根本昌夫氏は川端康成氏の「雪国」に続いて、吉行淳之介氏の『娼婦の部屋』の書き出しを次のように紹介している。
 <その日、私は押し入れの隅から埃にまみれた制服を捜し出して、一年ぶりに身をつけた>
 大学をやめて記者になった主人公が、ある大臣の奥さんを取材することになる。だが、学生でないことがすぐにばれて、その奥さんに屈辱的な思いをさせられる。その後、男はぶらぶらししながら娼婦街に出掛けて行く。
 私は吉行淳之介氏の『原色の街』を読んでから、吉行氏の文章に魅せられてしまった。
 その吉行氏の『娼婦の部屋』の冒頭文が引用されていることに吃驚した。これまで吉行氏の冒頭の文が紹介されている著作に出会ったことがない。
 それだけに、何だか嬉しくなってきた。

 <参考>
 The train came out of the long tunnel into the snow country. The earth lay white under the night sky. The train pulled up at a signal stop.
 A girl who had been sitting on the other side of the car came over and opened the window in front of Shimamura. The snowy cold poured in. Leaning far out the window, the girl called to the station master as though he were a great distance away.
 The station master walked slowly over the snow, a lantern in his hand. His face was buried to the nose in a muffler, and the flaps of his cap were turned down over his face.
 「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落とした。雪の冷気が流れこんだ。 娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、「駅長さあん、駅長さあん。」
 明かりをさげてゆっくり雪を踏んで来た男は、襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子の毛皮を垂れていた。」

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