確かなものは 冬の寒さだけであった

 私は現在、市の公園で16人のメンバーとともにアルバイトをしている。だが、2月末で女性が一人、3月末で現リーダーが辞めることになっている。
 その2人の補充メンバー候補として、シルバー人材センターの担当者が7日に一人、8日に一人、2人の女性を連れて管理棟に見学にやって来た。女性2人は共に62歳で、もし勤務するということになれば、バーベキュー班では最年少となる。
 次期リーダーの私としては、顔だけは知っておいた方がいいと思い、7日は用事があったので、8日の日だけ、見学時間に合わせ、管理棟に出掛けて行った。
 せっかちな私は予定されている見学時間よりも1時間も早く、公園に着いてしまい、時間調整のために、デジタルカメラ片手に、いつも見慣れた公園ではあるが、散歩することにした。
画像 この時期、公園に咲いている花は少ない。今、公園に咲いている花と言えば、蝋梅、水仙、山茶花ぐらいのものである。この公園の冬の花は、植えられた本数が少ないために、大きな樹木の陰で、どれもひそやかに咲いている。
 それでも私にとっては、季節の先陣を切って咲く春待ち花のような気がして、何か、いとおしくなってくる。
 デジタルカメラで、何枚も撮ってみる。
 現在、芝生広場とバーベキュー場の芝生サイトは、芝生に目土(めつち)を入れた段階で、3月17日まで立ち入り禁止となっている。目土の間から、緑色が見えるのは、おそらく雑草に違いない。
 予定時間に行ってみる。すでに管理棟の事務所に入っていた見学者の女性に一礼して、静かに目だけの挨拶をする。
 その日は、あくまでも見学が主なので、大まかな仕事内容の説明をしただけで、就業するかどうかはあくまでも本人の意思による。
 私は7日には来ることはできなかったが、7日と8日、2日間も女性が見学に来て、普段とは違う雰囲気だったこともあり、同じ公園で働いている除草班の女性から「あの新しい人たち、いつから勤務するの?」と尋ねられる。
 声を掛けて来たのは、今、公園で働いている女性たちの中で、最も厳しいと噂される女性で、バーベキュー班の女性メンバーも一目置いている。
 私は「働くことが決まったら、余りいじめないように」と釘を刺した。
画像 確か、その女性は私と同じ高校出身者だと聞いている。そこで、女性に歳を尋ねてはならぬというタブーを破って、「昭和何年生まれ?」と訊いてみた。即座に「昭和21年生まれ」という答えが返ってきた。
 私の初恋の人と同じ学年である。半信半疑で、その人のことを知っているかどうか、尋ねてみた。
 「あの双子の姉妹のお姉さんの方でしょ!知っているどころじゃないよ。学校帰り、いつも同じ電車に乗っていたのよ。わたし、高浜港出身だもの!」
 どうも尋ねた女性は大府市の男性と結婚して、そのまま大府市に住むようになったらしい。
 私の初恋の人は碧南出身であり、名鉄三河線で高校の3年間、通っていた。
 高校の最寄りの駅は刈谷市駅で、その刈谷市駅から碧南までの停車駅は次のようである。
 【刈谷市 → 小垣江 → 吉浜 → 三河高浜 → 高浜港 → 北新川 → 新川町 → 碧南中央(私の高校時代は新須磨)→ 碧南】
 当時、同学年で、この三河線を利用していた人は何人いたかは知らないけれど、いつも同じ電車に3年間も通っていれば、同じ中学校出身でなくても、親しくなっても不思議ではない。
 ただ、同じクラスにはなったことはなく、これまで同窓会もやっていないようである。逆に、学年が違うのに、何で私が双子の姉妹のことを知っているのか、しつこく訊いてくる。
 初恋の人とは言える訳がないので、文学研究クラブで一緒だったことや、高校の近くにあったプロテスタント教会にときどき一緒に行っていたという話をした。
 その女性は、それで納得したかどうかは分からなかったが、午後からの仕事をするため、休憩室から、そそくさと出て行った。
 そう言えば、私が高校3年生、彼女が1年生のとき、プロテスタント教会の集会のあとに、おそらく七並べだと思うが、みんなでトランプをしているときの写真があったことを思い出した。捜してみた。やはりあった。
 その55年前のモノクロ写真には、高校3年生の私と高校1年生の彼女が写っている。思い出というには余りに遠すぎて、初恋が破れてしまったという哀しみはすでになくなっている。
 写真を見ていて、集会所にはストーブがあったはずなのに、今はそのときの冬の寒さだけが確かなものとして、わずかに甦ってくる。初恋はいつかは遠い彼方に追いやられるものらしい。
画像

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック