笑いつつ、やがて悲しいパロディー色に染まっていった
私は12月29日から1月3日までの6日間で、4日間もアルバイト先で仕事が入っている。
4年半前にこのアルバイトをするようになってから、私は正月気分に浸ることがなくなってしまった。正月気分というのは、1年間を目一杯働いた人に与えられるべきもののようだ。
それでも、私が唯一、正月気分になるのは、大好きな餅がたっぷり入った雑煮を食べるときだけである。
例年ならば、その6日間で2日間の勤務で済むのだが、今回はワークシェアしているメンバーの一人が長期入院しており、さらにもう一人が地区神社の氏子代表に選ばれて、年末年始はさまざまな地区行事を参加しなければならないとかで、その間は仕事が出来ず、私がその2人メンバーの2日分の代替勤務をすることになったのである。
その4日間で1時間半早出の日が2日間もあることは、本音を言うときついが、リーダーをしていることもあって、仕方のないことだと今は割り切っている。
さすがに昨日から官民とも正月休みに入ってこともあって、世間が動き出す時間が遅くなってきているようで、 私の仕事が実際に忙しくなったのは、午前9時半を過ぎてからだった。
それまでの時間、私はのんびりとコーヒーを飲んで、3冊持ってきた単行本のうち、最もエンターテイメント性の強い池井戸潤氏の『民王』という小説を読んでいた。
やはり、仕事の合間に読むのは肩の凝らない本がいい。
この小説は、現政権の首相を務める武藤泰山とお世辞にも出来がいいとは言えない息子の翔が、突然入れ替わってしまうという突拍子もない設定から始まる。
つまり、父親と息子が入れ替わる訳だから、国会での野党の質問に対して、バカ息子が答弁をしなければならない。
そこで国会答弁の原稿を父親の優秀な秘書官に作ってもらい、国会で読み上げることになるが、実はこれが傑作で、私は読んでいて大笑いをしてしまった。
その答弁の箇所を引用してみる。
<(首相の父親と入れ替わった息子は)原稿を広げる。
「た、ただいまの、えー、シツモンについて、おっこたえシマース」
俺って何人?
自分の口から出て来る言葉のたどたどしさに、翔はあきれた。落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせる。 「なんつーか、我が国はいま、アメリカ発の金融、えーと、金融キキンによる、あー、ミゾユーの危機にジカメンいたしており、景気は著しくその、テイマイしておるところでございます」
場内がざわつき始めたが、翔にはその理由がわからなかった。
「建設など、一部の業界においては大型倒産がハンザツし、製造業においては、急激な受注減によるハヤリ労働者切りの問題が ― ええと・・・・・・おおっ?」
惹起、という文字を翔は見つめた。
なんだこりゃ?
いままでのところはカンペキだったのに、やべえ、これ読み方わかんねえ。そう思って助けを求めて狩屋を見るが、さすがの官房長官も答弁の途中ではどうすることもできない。
「えー、その・・・・・・」
ますます増した議場のどよめきに、文句あっか、と翔は開き直った。「ワカオキしておりまして、こうした事態をカイサケするため、昨年から我が党が実施してきた経済対策をフシュウした積極的な景気刺激策を講じてまいるトコロアリです。その具体的な対策でございますが、まず失業者に特化した職業訓練制度を、ど、導入するとともに、経営者側に対しては不当なハヤリ労働者切りのユウムを調査し、指導していく考えであります」>
私はもう一度この箇所を読み返して、カタカナの言葉はどんな漢字なのかを考えてみたが、「ハンザツ」「カイサケ」に対応する漢字が思い浮かばない。
それではばかりに読み進んでいくと、カタカナ言葉の正体がわかってくる。
キキン⇒危機、ミゾユー⇒未曾有、ジカメン⇒直面、テイマイ⇒低迷、ハンザツ⇒頻発、ハヤリ労働者⇒派遣労働者、ワカオキ⇒惹起、カイサケ⇒回避、フシュウ⇒踏襲、トコロアリ⇒所存、ユウム⇒有無ということになるらしい。
読んでいて、何年か前に当時の首相が国会で答弁していた内容そのものであり、そう言えば、漢字の読み方を間違えた首相もいたことにも気づいた。
まさにこの小説はパロディーだ。私の気持は笑いつつ、やがて悲しいパロディー色に染まっていった。
4年半前にこのアルバイトをするようになってから、私は正月気分に浸ることがなくなってしまった。正月気分というのは、1年間を目一杯働いた人に与えられるべきもののようだ。
それでも、私が唯一、正月気分になるのは、大好きな餅がたっぷり入った雑煮を食べるときだけである。
例年ならば、その6日間で2日間の勤務で済むのだが、今回はワークシェアしているメンバーの一人が長期入院しており、さらにもう一人が地区神社の氏子代表に選ばれて、年末年始はさまざまな地区行事を参加しなければならないとかで、その間は仕事が出来ず、私がその2人メンバーの2日分の代替勤務をすることになったのである。
その4日間で1時間半早出の日が2日間もあることは、本音を言うときついが、リーダーをしていることもあって、仕方のないことだと今は割り切っている。
さすがに昨日から官民とも正月休みに入ってこともあって、世間が動き出す時間が遅くなってきているようで、 私の仕事が実際に忙しくなったのは、午前9時半を過ぎてからだった。
それまでの時間、私はのんびりとコーヒーを飲んで、3冊持ってきた単行本のうち、最もエンターテイメント性の強い池井戸潤氏の『民王』という小説を読んでいた。
やはり、仕事の合間に読むのは肩の凝らない本がいい。
この小説は、現政権の首相を務める武藤泰山とお世辞にも出来がいいとは言えない息子の翔が、突然入れ替わってしまうという突拍子もない設定から始まる。
つまり、父親と息子が入れ替わる訳だから、国会での野党の質問に対して、バカ息子が答弁をしなければならない。
そこで国会答弁の原稿を父親の優秀な秘書官に作ってもらい、国会で読み上げることになるが、実はこれが傑作で、私は読んでいて大笑いをしてしまった。
その答弁の箇所を引用してみる。
<(首相の父親と入れ替わった息子は)原稿を広げる。
「た、ただいまの、えー、シツモンについて、おっこたえシマース」
俺って何人?
自分の口から出て来る言葉のたどたどしさに、翔はあきれた。落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせる。 「なんつーか、我が国はいま、アメリカ発の金融、えーと、金融キキンによる、あー、ミゾユーの危機にジカメンいたしており、景気は著しくその、テイマイしておるところでございます」
場内がざわつき始めたが、翔にはその理由がわからなかった。
「建設など、一部の業界においては大型倒産がハンザツし、製造業においては、急激な受注減によるハヤリ労働者切りの問題が ― ええと・・・・・・おおっ?」
惹起、という文字を翔は見つめた。
なんだこりゃ?
いままでのところはカンペキだったのに、やべえ、これ読み方わかんねえ。そう思って助けを求めて狩屋を見るが、さすがの官房長官も答弁の途中ではどうすることもできない。
「えー、その・・・・・・」
ますます増した議場のどよめきに、文句あっか、と翔は開き直った。「ワカオキしておりまして、こうした事態をカイサケするため、昨年から我が党が実施してきた経済対策をフシュウした積極的な景気刺激策を講じてまいるトコロアリです。その具体的な対策でございますが、まず失業者に特化した職業訓練制度を、ど、導入するとともに、経営者側に対しては不当なハヤリ労働者切りのユウムを調査し、指導していく考えであります」>
私はもう一度この箇所を読み返して、カタカナの言葉はどんな漢字なのかを考えてみたが、「ハンザツ」「カイサケ」に対応する漢字が思い浮かばない。
それではばかりに読み進んでいくと、カタカナ言葉の正体がわかってくる。
キキン⇒危機、ミゾユー⇒未曾有、ジカメン⇒直面、テイマイ⇒低迷、ハンザツ⇒頻発、ハヤリ労働者⇒派遣労働者、ワカオキ⇒惹起、カイサケ⇒回避、フシュウ⇒踏襲、トコロアリ⇒所存、ユウム⇒有無ということになるらしい。
読んでいて、何年か前に当時の首相が国会で答弁していた内容そのものであり、そう言えば、漢字の読み方を間違えた首相もいたことにも気づいた。
まさにこの小説はパロディーだ。私の気持は笑いつつ、やがて悲しいパロディー色に染まっていった。
この記事へのコメント